2010年5月29日土曜日

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない/桜庭一樹

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)
むー

富士見書房 2004-11
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GOSICKの桜庭一樹、新境地――青春暗黒ミステリー
全ては忘れていくことかもしれない。今感じているこの切なさも、そして大人に対する憤りも、そしてどこかに行きたいと願う焦燥も。そんな十代の思いを桜庭一樹が鋭く切り取った暗黒ミステリーが本作。鳥取の片田舎に生きる女子中学生・山田なぎさ。父は他界し、母のパート代でなんとか暮らしている。どこにでもいる少し不幸な少女と、自分を「人魚」だと語る、謎多き転校生との奇妙な友情が、進む未来の先に見える光景とは? 
 富士見ミステリー文庫オフィシャルページより引用

 twitterで夏っぽいラノベTLに影響されて再読。個人的には桜庭作品で1番夏っぽいのは『少女に向かない職業』だと思うけどさ。
 GOSICKから桜庭作品を読んできた身としては、改めて、分岐点の作品なんだなと実感。この方向性自体は推定少女の時点であったんだけど、あれはどっちかというと、宇宙人がなんのかに目がいってしまって、少女の内面の描写がいまいち入ってこなかった感じを受けたので、この作品があってこその一般文芸への転向だったと思う。 
 本文もそうだなんだけど、あとがきを読んで更に桜庭一樹とその周り(編集者)の方たちのすごさに驚く 。この作品を思いついて一瞬に書き上げる作者もそうだし、この内容であるにも関わらず、原稿をもらった次の日は出版を決める出版社も。 
この作品の感想を読んでいてよく見かける、「イラストがあっていない」って感想だけど、個人的にはある意味ですごくこの作品を表していて、とてもあっているんじゃないかと思う。ショッキングな内容と乖離したイラストだからこそ、そのギャップでしょっぱなから読者に衝撃を与えられる。ラノベレーベルから出版し、手にとってもらいやすい可愛らしいイラストは、砂糖菓子の弾丸のような藻屑≒構ってちゃんの様を表している。そうみることも出来るんじゃないか思う。

読んだ高校生当時はなぎさの実弾を求める姿に共感して、自分も実弾を求めるようなストイックな生き方をできれば・・・って思った記憶がある。だけど、今改めて読むと、藻屑の生き方もなぎさから見れば砂糖菓子の弾丸でも、あれは子供であることしかできなかった藻屑なりの実弾なのかなと、思うようになった。いままで虐待という形であっても、誰かに何か刺激を与えられ続けた藻屑は、とにかく構ってもらわないと生きていくことすら辛かったのかもしれない。だから構ってもらえるように、エキセントリックな言動をしたりしてとにかく、気を惹きたかった。もしくは、だれかと親しくなることで、雅愛に依存しない生き方を求めていたのかも。どっちだったのかはわからないけど、あの行動は藻屑なりの実弾だったのだと思う。


桜庭一樹にこれ以外の作品で、特にGOSICKで興味を持ったひとに薦めるのはキツイ作品であるのかもしれないけど、桜庭一樹を読む上で外したくはない1冊。少女から大人になるまでの過程での葛藤を描く、という桜庭の作風をもっともよく表しているから。赤朽葉とか私の男とかを好む層からすると、あまりに青臭い作品であるのかもしれないけど、それらの作品に出てくる女性も作者の中ではそういう過程を経て、女性になった「元少女」だったと考えると、もっと作品を楽しめるようになるんじゃないかな。 

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